たくさんの犠牲を払ったが、前進している気がしない。背水の陣を敷いたはいいが、沈みかけている。
勇気を出して犠牲を払ったものの結果が良くなかった、そういうときの内省の視点について、ここでは考えてみます。
勇敢と無謀の区別
犠牲を払って何かに取り組むとき、自分の選択が勇敢と蛮勇(=無謀な行動)のどちらか考えてみてください。大胆=勇気ではありません。
勇敢と蛮勇の違いについて理解を深めるため、選択をリスク、ダメージ(コスト)、リターンの3つの視点で解釈してみます。
勇敢の1つ目のパターンは、目標を達成する道筋がはっきり見えているが、代償となるダメージが致命的に大きいパターンです。つまりローリスク/ハイダメージ/ハイリターンのケースです。肉を切らせて骨を立つ戦術や、献身的な行為などが該当します。ダメージをどう許容可能な範囲に持ち込むかが決め手になります。
勇敢の2つ目のパターンは、破滅をうまく避けながら、大きな負荷や不確実性を伴う目標に挑戦する行為です。ハイリスク/ミドルダメージ/ハイリターンのケースだと言えます。ハードな計画を実行に移したり、難易度の高いコンペに挑戦することなどが該当します。いかに破滅せずにリスクを取り続けるかが決め手になります。
これに加えて、日々の地道な取り組みも勇敢さの形の一つです。見通しを探るために、トライアルを繰り返すこともまた一つのリスクテイキングです。目標達成までのシナリオを模索することは、破滅を避けながら大きなリターンを目指して挑戦を繰り返すことで、犠牲を払う前の大切なプロセスです。
一方で蛮勇のパターンは何かというと、続ければ確実に破滅が訪れるような行為に、破滅を回避する策を準備せず臨むことです。また、目標達成と行動との結びつきが弱く、恐怖から思考を放棄している、目隠し運転でとにかくアクセルを踏み込んでいるような行為。ハイリスク/ハイダメージ/ノーリターンのケースです。
自分に合う現実的なリソース計画を無視して、形だけ成功者の真似をし続ける(全ての移動にタクシーを使うとか)、みたいなものがこれに当たります。
勇敢さのセルフチェック
セルフチェックのポイントは「ダメージ、コストの存在を認め、現実的に計算しているかどうか」です。
ハイリスクな挑戦ほど、ダメージやコストは、リターンより見積もりやすく、コントロールしやすいものになります。そして同時に、目を背けたくなる部分でもあります。
いかに致命傷を避けてトライアルを繰り返し、目標達成のシナリオを模索し続けるか、あるいは甚大なダメージに対処して目標を達成する明確なプランがあるか。それとも単にダメージに対して無策なだけか。
これが勇気と蛮勇を分けるポイントです。
ダメージを計算するためには、恐怖や不安と向き合うことが必要です。
ダメージのシナリオを見積もること、できる限りの準備をすること、できないことは切り捨てること。そのように現実を見てダメージコントロールをすることが、不安を受け容れることそのものだと、私は考えています。
ダメージの見積もりを始めるには、リソース(時間、エネルギー、お金、など様々)のフィットアンドギャップからスタートするのがいいと思います。その上で、リソース配分の選択シナリオをいくつか作り、それぞれのシナリオで将来何が起こるかを予想します。そして、シナリオの優先順やリソース配分をどうするか、いつ何を条件にシナリオを切り替えるか、といった計画を考えていきます。
撤退したら次どうするのか、ということを考えるのも一つの手です。これは最も強力なダメージコントロールです。とはいえ弱腰すぎてもいけませんから、個々のスタイルに合わせて適度に考えます。
「今の手段がダメだったときのB案を考える」ためには、「自分の望むものは突き詰めると何なのか」という深い自己理解が必要になり、それにトライすること自体にも大きな価値があります。手段に固執しすぎるのはいいことではありませんが、自分に忠実であることは諦めてほしくないと思います。